Sunday, February 02, 2003

[勝手に中国語講座] 06-そんなもんでしょ!



当時台湾映画界の新鋭監督だった候孝賢[hou2 xiao4 xian1] (ホウ2 シァオ4 シェン1) (アッすいません、彼の名字の「候」は当て字です。本当は人偏の右にある縦棒はいらないのです)が撮った映画がありました。「風櫃来的人[feng1 gui1 lai2 de5 ren2] (フォン1 グェ1 ライ2 デ5 レン2) 、日本では「風櫃から来た少年」と紹介されました。澎湖島 [peng1 he2 tao2] (ペン1 フゥ2 タオ2) という、台湾海峡にある島の不良少年たちを活き活きと描いた映画です。そこに登場する風景が実にいい。見たくて見たくてならなくなりました。で、仲間を集めて訪れることにしたのです。

ある日の夕方、膨湖島に渡るため、台湾中部のひなびた港町・塩水 [yen1 shui2] (エ ン1スゥエイ2) に日本人四人がタクシーから降ります。明日早朝、船に乗り込まなければなりません。岸壁の屋台のオヤジに「宿無い?」。と客でいた一人の若造が「あるあ る」。賭け事で手に入れたというBMWに、腕にはやはり麻雀の掛け金がわりで手にしたロレックス。四人の日本人は、町外れの、一見普通の民家に見える民宿 に連れて行かれました。民宿はまだ新しい。
「一寸雰囲気違うよなー」
「おーい、町中にはないの?」
「OK!」

再び旧市街へ戻ります。そこには百年はたっていると思われるかなりくたびれた長屋の民宿が。雰囲気だけはあるので泊まることにしました。
「ありがと。一緒に飯でも喰わないか?」
「いいよ。家で喰うから」
「そんじゃその後酒でも飲もう。仲間と一緒でいいぜ」
「OK!」

夜の塩水は真っ暗です。片田舎の寂れた港町、例のBMWは突っ走ります。畑のなかをひたすら。と、ポッと明るい一角が。小さな廟のある広場の周りには、プ レファブ造りの数軒のお店が。店先には提灯が連なり音楽が流れてきています。そう、ここは畑のど真ん中につくられた歓楽街。もう我々四人、映画の中に入り 込んでしまっています。ロレックスの若者とその仲間たちを含めて七人、安っぽいピンクとスカイブルーの照明に誘われて部屋へ入ります。チャイナドレスのお 嬢さんが、紹興酒にビール・野菜のサラダに果物を手際よくでかい円テーブルに置いていきました。

若い女性が客の隣りに座っては次の女性 が。実に周りは賑やかです。気後れした我々日本人はただただ圧倒されるばかりです。ロレックス君の友人の一人が何か女性ともめています。彼女はハンカチで しきりに目頭を押さえています。若者の目は固まっています。どうも彼女が店で働いているのを知らなかったようです。騒がしい音楽に酒と女性、もう取り留め もなく場面が展開しているようです。薄暗い照明のなか、なかなか酔うこともできないでいると、ロレックス君、仲間に「差不多吧」 [cha1 bu5 duo1 ba5] (ツァ1 ブ5 ドゥオ1 バ5) 。実にいいタイミングの一言です。「おい、いい加減だぜ」、もうそろそろいいんじゃないの?「あがろうぜ!」「きりあげようぜ!」。

「差不多」 [cha1 bu5 duo1] (ツァ1 ブ5 ドゥオ1)という一言がこんなにハマッて聞こえたのは始めてのことです。中国語の教科書や辞書では「ほとんど」「大体」などと説明されています。直訳すれば「差が多くない」、うまい一句です。私の今までの使い方では食事の際のこと。「もう少しいかがですか?」「差不多」(いや、もういい具合です)。飲み屋でお酒を勧められたときも同様な使い方です。買い物で値切りをしたとき、店のオヤジも「差不多 差不多」と言い返してきます。「いい具合の値段だぜ」。「あたしの中国語はどうですか?」答えは「差不多」(大体ですよ)なんて感じです。ロレックス君は「差不多」と最後に一字「吧」を加えて強調させました。

巷に入り込むとその地方の生な姿に出会うことができます。そこで知った中国語の使い方。今回のお話もその一つでした。

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